顧客心理|不動産・住宅営業の「真髄」はマイホームの夢を壊すこと?

マイホームの夢を破壊

※本ページにはアフィリエイト広告が含まれています。

「住宅営業って、マイホームの夢を叶える仕事でしょ?」

特に若い人には、そんなイメージを持つ方も多いはずです。

「自分たちにはいくらぐらいの家が買えるんだろう?」
「駅近の家に住みたい」
「庭付きで、明るくて広いリビングがあって…」


などなど、顧客の悩みや不安の解消に力を貸しつつ、思い描いたマイホームの夢の実現に力を貸す、そんな仕事だと。

そういった側面もある一方で、

  • 予算の上限
  • 立地の制約
  • 材料の高騰
  • 実家との関係  …など、

現実にはさまざまな制約が立ちはだかります。
不動産営業といっても種類がありますが、特に住宅営業は顧客に対して「現実を分かってもらう」という役目を担わなければなりません。そうでないと顧客は、一生マイホームを買うことができなくなってしまうからです。

今回の記事は、
「お客様のマイホームの夢を破壊することも、住宅営業の大切な仕事」
という切り口で、その他の顧客心理にまつわるエピソードなども織り交ぜながらまとめてみました。

今回の記事はこんな方におすすめ

  • 不動産・住宅会社への就職・転職を考えている
  • マイホームを購入する顧客の心理、行動原理を知りたい
  • 不動産の価格決定の内情について知りたい
  • マイホーム購入を検討中である

この記事を書いた人について
この記事の執筆者は不動産(分譲住宅)会社に10年以上、広告担当として勤務していました。営業スタッフとの打ち合わせは日常業務であり、そこから不動産営業のリアルを見聞きしています。
また宅建士として100件を超える契約に立ち会いもしています。

目次

顧客心理①:いつか、掘り出しもの物件が…、という幻想

ありがちな顧客心理として最初に紹介するのは、
「根気強く待っていたら、いつか全ての条件をかなえる理想の物件が…」
という幻想についてです。

現実に分譲住宅会社への問合せでは

  • 駅徒歩5分以内
  • 3LDK以上
  • 駐車スペース3台分
  • 価格は絶対●●●●万円以下

といった、実際の相場観からかけ離れた希望条件を出してくる方が結構います。

そういった物件が無いことを伝えると
「じゃあ今日はもういい、物件が出たら教えて」
と、連絡先を残して会話終了となってしまうパターンです。

分譲住宅の場合、検討を初めてから半年以内で契約される方が多いです。が、上に書いたような方の場合は数年の間隔をおいて突然連絡が有ったり、展示場に来場されたりすることで、

「あ、この方、他社で契約することもなく、ずっと家を探し続けてたんだ」

ということが判明したりします。

数年間というと、大人にとってはたいしたことないような気がしますが、子供にとってはそうではありません。年頃の子供にとって、いつ自分の部屋がもらえるのか分からないまま数年間が過ぎるというのは、結構キツいのではないでしょうか?

しかし、大人(親)の側からすると、
「希望の物件が見つかるのを何年も待ったのだし、ここで妥協してしまうと今までの時間がムダになってしまう」

と、いわゆるサンクコストのような考え方(あるいは拗らせ方)になってしまい、ますます決断が難しくなってしまいます。

心理学・行動経済学で読み解く顧客心理①

サンクコスト:
既に支払ってしまい、どんな意思決定をしても回収できない費用や労力のことです。日本語では「埋没費用」とも呼ばれます。例えば、事業に投資した資金や、恋愛で費やした時間などがサンクコストに該当します。「ここで止めたら、これまでに費やした時間がムダに…」とは考えないのが合理的な判断です。

損失回避バイアス:
利益を求めるより損失を回避することに敏感に反応する人の心の傾向です。上に書いた例だと、今さら妥協して家を買うことは、これまでの時間が無駄だったと認めることになってしまうので嫌だ、という心情になります。

不動産業界で「掘り出しもの物件」は実在するのか?

この問いに対する答えは、イエスでもあり、ノーでもあります。

例えばここに、好条件の割に安く販売される分譲住宅があったとすると、以下のような会社側の事情が考えられます。

  • 早期の現金化を希望する地主から、相場より安く土地を買えた
  • 住宅会社自身も、決算の都合で早く現金化したかった
  • 会社の方針で、その地域からの徹底が決まっているので早く完売したい
  • 土地を紹介してくれた金融機関や親会社の手前、早く完売したい等、地元のしがらみ

こういった事情がいくつか重なることで、お買い得になることはあり得ます。しかし、①②の場合でも資金繰りがよほど厳しい会社でない限り、好条件の物件を大幅値引きすることはないはず。来期の売上になっても良いから、まっとうな価格で販売しようと考えるのが普通の会社でしょう。

つまり、「この物件は大幅値引きしても売りたい」となった時点で、それ相応の物件でしかない、もしくは会社自体に人気が無いので全体的に売れてないと考えるのが妥当です。

ちなみに④はレアケースですが、それでもあくまで現実的な相場の範囲内での「お得」でしかありません。

こういった事情を考えると、いつ現れるかも分からない「幻の掘り出しもの物件」を待ち続けるよりも
「子供が小学校に上がる来年4月までには絶対に入居!」
のように期限を切って物件を探す方が現実的です。

土地には「新しく作れない」という制約がつきまとう

念のため、「掘り出しもの物件」についてさらに掘り下げます。

そもそも土地は新しく作ることができません。

工場で生産できる商品、例えばコンビニ弁当の場合だと
「この商品は値下げすると今より2倍売れそうだから、値下げした分を差し引いても利益が増えるはず!」

という予測が立った場合、工場に対して今までの2倍発注しつつ、価格改定するという作戦が可能です。

ところが土地の場合は、

  • 相続のために手放す人の情報を金融機関や税理士経由でキャッチ
  • 空き家・空き地の持ち主を登記簿で確認して地道に連絡を取る

など、案件を見つけるだけでも手間がかかります。さらに土地を手放す人も、せっかくであれば少しでも高く売りたいので、複数の業者に査定依頼をするのが普通です。このため好条件を出した1社だけが、その土地を買うことができます。

つまり土地は供給が限られている上に、とても仕入れに手間がかかる「材料」という訳です。さらに、土地の状態で売るにしても、家を建てて分譲住宅として売るにしても、基本的には商品は一品ものです。

従って不動産の場合、
「この物件を見に来た人、10人中10人に『うわ、安い!お買い得!』と思ってもらえる値段である必要は無い。物件を気に入った1人が最終的に『買って良いかも』と思える上限の値段こそが値付けの正解」

…というのが価格設定の根底にあります。これは別にボッタくりとかではなく、「次」の仕入れが不確実な以上はそうしないと会社を存続できないからです。

とはいえ実際には競合他社の価格を無視することはできません。
住宅会社は、会社を存続させるために必要な利益を考慮しつつ、競争上で不利にならないような「ギリギリの線」を狙って販売価格を決定します。その上で販売状況が思わしくないと、やむなく値引きして現金化することになります。

不人気物件は金食い虫?
「掘り出しもの物件」は滅多にないですが、なかなか完売しない「不人気物件」は世の中に多数あります。

自社で住宅用地を購入する場合、住宅会社は土地を担保にして金融機関から融資を受けます。次の物件の為の融資を受けるには、過去の融資分をある程度は返済できている必要があります。また販売中の建売住宅には、万が一の火災などに備えて保険に入る必要があります。
こうした金融機関に対する信用、金利、保険料、さらに営業スタッフが売れない物件に拘束されるデメリットを考慮すると、不人気物件は値下げ処分せざるを得なくなります。

ただし、土地や家には固定資産としての価値があるため、TVゲームの不人気作品のように「半額以下にしても売れない、タダでも要らない」といった”暴落”にはなりません。

顧客心理②:「この条件は絶対に譲れないんです!」⇒そうでもない

世の中の一部には、マイホームに求める条件が年収が多い割に控え目の方もいます。ですが、やはり自分の収入で実現可能な、最大限の好立地・好条件の家を求める方が多数派です。

従って、

  • 年収500万円の人は500万円なりのマイホームの夢を
  • 年収1000万円の人は1000万円なりのマイホームの夢を

それぞれ思い描いている為、どちらも希望を全部かなえようとすれば予算オーバーになってしまいます。

このため世間一般から見れば充分な予算があっても、「自宅にプールを作りたい」と本気で思っている人からすると、「〇〇をつけるには□□を諦めないと…」という悩みが発生することになります。

そうすると次に問題になるのが「妥協したくない条件はどれで、譲ってもいい条件はどれか?」という問いです。

妥協できない条件の例

その①
子供が進行性の難病で、いずれ動くのが困難になることが分かっている。夫婦は将来の為にバリアフリーを徹底した平屋を残してあげたいと考えている。
(極端なケースですが、住宅関連雑誌で紹介されていた実例です)

その②
足が不自由で、車も運転できない家族がいる。通勤の為に駅近もしくはバス停が近いことが必須である。

その③
過去、子供がいじめにあったことがあるが、今の学校ではクラスに馴染んで楽しい学校生活を送っている。このため学区は変えたくない。

私が思うに、本当の意味での「絶対に妥協できない条件」というのは、こういった家族の心身に関わるものだと思います。

妥協できないというほどでもなかった条件の例

駅徒歩5分が絶対!だったAさんの場合
駅徒歩10分~の家に住んで毎日通勤のために歩いた方が健康的、逆に駅徒歩5分の家に住む代わりに週末にウォーキングするのとどっちが良いかと、問われると「そういう考え方もあるのか、と納得」

自営業を営むBさんの場合
仕事の都合上、駐車スペースが3台欲しかった。が、駐車スペースが少ない家を買ったとしても、近所に月極駐車場があれば事足りると気づき、選択肢が広がった。

家は一戸建が絶対、マンションなど認めない!というCさんの場合
ヒアリングしたところ両家とも実家が一戸建で、昔から親に「家は一戸建に限る」と聞かされていた。が、逆に言えばそれ以上の理由は特に無いことが判明。マンションの方が便利な立地で選べることが多いと知り、考えが変わる。

あくまでこれは例なので、現実の商談でこんな風に顧客を納得させられるかはまた別の話です。

とはいえ先に書いたような「絶対に妥協できない条件」以外の条件をいかに調整、納得してもらい契約に至るか、によって住宅営業の力量が問われることになります。

ここでつまり、
現実性が乏しい「マイホームの夢」を破壊(リセット)することも住宅営業の仕事の1つ
という本記事のテーマに辿り着くわけです。

このため住宅営業の方たちは、上に挙げた「駅から離れた分、毎日ウォーキングが出来ると思えば良い」的な、顧客の反対意見に対する切り返しトークのパターンをたくさん持っています。

これは見方によっては、ただの屁理屈である一方で、「何らかの妥協しない限りマイホームは買えない」という現実をちゃんと踏まえた上での、顧客へのアドバイスという見方もできます。

心理学・行動経済学で読み解く顧客心理

フレーミング効果:
同じ情報でも伝え方や表現方法を変えることで、受け手の認識や判断が変わってしまう現象のことです。例えば、「90%の成功率」と「10%の失敗率」は同じことを表していますが、前者はポジティブな印象を与え、後者はネガティブな印象を与える可能性があります。駅からの距離など、住宅の条件の伝え方についても同様なことが言えます。

アンカリング効果
親から聞いた話など、初期に得た情報に必要以上に強く影響されてしまう傾向です。

確証バイアス:
情報を集める際、自分の考えに合った情報ばかりを信じ、それ以外を無視または軽視してしまう傾向です。「家は戸建に限る」と考えている人は、マンションのメリットについて書かれた記事を頭ごなしに否定するかもしれません。

成約率と営業成績が安定する人・しない人の違い

マイホーム購入希望者に対して

  • 条件を妥協してもらい、現実の物件で納得してもらった上で契約して頂くことができる営業
  • たまたま自社の物件が希望にぴったり合った時だけ契約してもらえる営業


この2者では成約率およびその結果としての営業成績に如実に差が出ます。後者の場合は安定性が無く、売れるのは「たまたま」の要素が強くなります。

後者の典型的な営業(商談)スタイルは以下です。

顧客「…という条件の物件が欲しいんだけど」

営業「これなんかどうですか?(資料を見せる)」

顧客「ダメ」

営業「これは?」

顧客「ダメ」

営業「これなら?」

顧客「ダメ」

営業「これでダメだと、今は物件がもうないです」

顧客「分かりました。またそのうち聞きに来ます」

このように、顧客の条件に合わせて次から次に資料を見せていくというやり方は、取扱い物件数の多い賃貸住宅の営業向きです。

分譲住宅会社、または自社で用意した土地に家を建てるタイプの注文住宅会社の場合、一定のエリア内で紹介できる物件(土地)の数は賃貸ほど多くないのが普通です。そのため、この営業スタイルでは、あっと言う間に物件紹介が終わってしまい、顧客はさっさと帰ってしまいます。

私が見聞きした範囲での「売れる営業」に共通するスタイルは、これとは反対です。
まず物件を紹介するのではなく、顧客の希望条件、およびそのような希望条件になった背景を深掘りしてヒアリング、その過程で信頼関係を構築という流れになります。

まずは聞くこと、つまり「傾聴」が大事というのは、どの業界の営業でもおそらく共通なはずです。

顧客心理③:実家、借金…、契約までに立ちふさがる壁

住宅は単なるモノではなく、生活の場です。顧客が自社商品のスペックを気に入ったから買う、というだけでは済まない、様々な事情が絡みます。以下に、住宅購入でありがちな例を挙げてみました。

縁もゆかりもない場所で住宅を購入
Aさん夫婦はY市内で住宅を購入。しかし、Y市は夫婦2人とも縁もゆかりもなく、勤務先も全然別のところ。
それなのにAさん夫婦がY市で家を買った理由はというと…

・夫は長男で実家はX市
・妻は一人っ子で実家はZ市

この場合、実家のあるX市Z市いずれかで家を買うと、
「わざわざ先方の実家近くで家を買うなんて、お前は親を見捨てる気か!」
と、相手側の実家から文句を言われる可能性が高い(あるいは検討段階で既に言われた)

このためX市Z市の中間にあるY市で購入に至った。

⇒このパターンは結構あるケースです。購入してしまってから実家と揉めるより、ずっと良いと思います。

気に入らなかったから破談に…①
20代のBさん夫婦は、2人とも実家から経済的に独立しており、家を買う上で金銭的に支援してもらう予定もない。

そのため家を買うことについて、実家への報告は物件が決まってからにしたところ
「そんな大事なこと、なんで黙ってたんや!」と親が大激怒。

結果、今回の契約は無しということに。
(報告が無かったのが気に入らなかっただけで、物件の問題ではない)

⇒本人夫婦の年齢がもっと上で、「親が反対しようと関係無い」と言い切れるまでになっていれば別ですが、20代夫婦の場合は親への報告が遅れただけで、揉める場合があります。

気に入らなかったから破談に…②
Cさんの実家は風水に強いこだわりがあり、
「昔からお世話になっている〇〇先生が認めた家しか、買うのを認めない」
という方針。

Cさんは親からの援助をあてにしていたので実家の反対があると購入できない。
妻は、いつまでもマイホームが買えないことに内心イライラしている。

⇒上と同様、本人夫婦が経済的にも精神的にも独立しており
「親が反対しようが知るか!」
と言い切れるなら住宅購入できたケースです。

絶体に本音を言いたくないマン①
Dさん夫婦では妻の実家を二世帯住宅に建替えのうえで、同居するという話が出ていました。

しかしDさんは内心、義実家の人たちがあまり好きではなく、何としても同居は避けたいと思っていました。とはいえ、そのことを口に出すとケンカになってしまうので、

「将来、転勤の可能性が有る」
「義実家のある〇〇地区は集中豪雨の際に浸水する可能性が高い」


などなど、思いつく限りの理由を挙げて抵抗しています。

⇒この場合、Dさんが建替えに反対する理由は別にあるので、〇〇地区のハザードマップを用意して家族会議をしたところで問題は解決しません。Dさんが親族の誰にも言えなかった本音を、担当営業が聞き出せるかがポイントになります。

絶体に本音を言いたくないマン②
Eさん夫婦では、妻が今年こそマイホームを買うぞ!と盛り上がっています。
しかしEさんには隠れた借金があり、

・そのままでは住宅ローン審査に通らない可能性が高い
・審査に落ちることで、結果的に借金がバレてしまう

このためEさんは、
「少子高齢化で住宅需要が減少して不動産価格は暴落する。従って今、住宅を買うのは愚の骨頂」
などと、適当な理由をつけて購入に反対します。

Eさんは用心深いので「まもなく日本の不動産は大暴落説」が論破されたときに備えて、「これからは一生賃貸で暮らすのが賢い生き方説」もこっそり用意しています。

⇒この場合も、本人が腹を割って話せるほどの信頼関係を担当営業が築けているか、が勝負の別れ目になります。

蛇足ですが、Eさんは上に書いたDさんと「本音を話しなくない同士」で仲良くなれる可能性が高いです。

EQ:住宅営業にとって最も重要な資質の1つ

住宅営業への転職を検討している人にとって、こういった家族・親族の心理を察する能力の方が、宅建合格や知識習得よりも、ある意味重要だと言えます。

いわゆる「空気を読む」能力が求められる一方で、借金であったり親族を巡る感情など、聞きづらいことをあえて質問する判断も時には必要です。

そういった能力は、昔から使われていたIQ(知能指数)と区別して、近年ではEQと表現されるようになりました。

EQ(Emotional Intelligence Quotient)とは?
「心の知能指数」とも呼ばれ、感情を理解し、効果的に管理する能力を測る指標です。 高いEQを持つ人は共感力や柔軟性に優れ、ストレス耐性も高く、感情の変化に適切に対応できます。


なお接客・営業・教育・医療などの分野のように、常に自分の感情のコントロールが求められる労働形態を「感情労働」と呼ぶことがあります。以下の記事では不動産営業が「感情労働」である側面を取り上げています。

顧客心理④:盛り上がっている時こそ「水を差す」のも大切

ここまで書いたように、住宅の購入は様々な事情をクリアしたうえで決めるべきことです。このため本人夫婦の気持ちの盛り上がりに対して、あえて営業側から「クールダウン」を促した方が良い場合があります。

たとえば夫婦間で「今年、家を買う!」という合意ができていて、お二人が盛り上がっている時に

「ちょっと待ってください、お二人とも一人っ子ですよね?ご実家は大丈夫ですか?」

…のように声掛けするなどです。

私が知る、とある営業マネージャーは

「『鉄は熱いうちに打て』と一緒で、盛り上がっているうちにタイミングを見て現実を突きつけるんやで。実家が介入してきてから右往左往するんじゃなくて、こっちから訪問するなり、先手を打つんや!」

…みたいなことを話していました。

せっかくの盛り上がりに冷や水を浴びせることになりますが、破談につながるような問題点は早目に顕在化させてしまった方が良い、場合によっては買えないなら買えないで早めにはっきりさせた方が良い、という考え方です。

この辺りを、経験の浅い営業とベテラン営業で比較すると以下のようになります。

経験の浅い営業
せっかく担当することになった顧客を大切にしたいあまり、実家関係など面倒ごとは後回しにして、間取りやデザイン等、顧客にとって楽しい話ばかりを進めようとする。

ベテラン営業
契約するうえで問題になりそうな点をなるべく早く浮き彫りにしようとする。その結果「この顧客は現時点では家を買えない」と判断したら、商談時間を他の顧客の為に使う。

とはいえ、これは考え方としては合理的ですが、一歩を間違えると「その場の雰囲気を、ただぶち壊しただけ」になってしまうので、タイミングを測る能力も重要です。

顧客心理⑤:顧客は平気で噓をつく

人が良い住宅営業は、特に経験が浅いうちは全ての顧客に対して分け隔てなく時間と労力を割くような「いい人」であろうとするかもしれません。ただ、それでは成績を上げることは困難です。

例えば顧客が「検討してきます」と言い残して帰った場合、この「検討してきます」は文字通り検討してくるのか、それとも体の良い断り文句なのか、どちらでしょうか?

住宅の商談・追客では1件あたりに相当な時間とエネルギーを使います。

  • かどを立てずに断りたかった
  • 来場プレゼントが欲しかっただけ
  • 妻は盛り上がっているが、夫は調子を合わせてはいるものの全くその気がない
  • 本命は他社で、値切るために自社に見積を提示させたいだけ
  • 買う気はあるが、住宅ローン審査に通る見込みがない

こういった顧客もいる中で、「誰に時間を使うべきか」の判断は重要なテーマです。

顧客の本気度を読み間違えてしまうと
「実家に報告してくるので、もう少し待ってください」
と言われて、すっかり契約見込だと思っていた顧客から
「すみません、実は他社で契約してしまいました」(他決)
という返事が返ってくることさえあります。

他決にならないように全力を尽くすのは当然仕事のうちですが、他決になってしまった後に気持ちを素早く切り替えることができるのも、住宅営業に必要な資質の1つです。

顧客心理⑥:契約~引渡しの間は「マリッジブルー期間」

契約後も、引渡しが終わるまでは各種の事務手続きがあることについては、以下の記事の中盤以降にまとめました。

契約後の事務手続きだけでも充分に大変なのですが、それを一層大変にするのが「契約客は引渡しまでの間、神経過敏になる」ということです。担当営業はこの期間をなんとか乗り切らなければなりません。

具体的には、契約するまでは
「いよいよマイホームが手に入る!!!」
ということで盛り上がっていたのが、契約後になって

  • 「あれ?本当にこれで良かったのか?」
  • 「やっぱり全国的に有名な大手で買った方が良かったんじゃないのか?」
  • 「私たち、騙されてない?」

…といった考えが頭の中を駆け巡ってしまうのです。おそらくこの感情に一番近いと思われるのは「マリッジブルー」ではないかと思います。

マリッジブルーとは?
結婚を控えた人が、結婚生活への不安や迷いを感じ、気分が落ち込んだり憂鬱になったりする状態のことです。一般的に、結婚が決まって幸せなはずなのに、なぜか気分が沈んでしまう、という現象を指します。

この段階で起こりうるのは、引き渡しを控えた顧客とのやり取りで些細なミスがあった途端、今まで温厚だった顧客が急に感情的になったり、クレーマーのようになってしまうことです。

住宅ローンを使う場合、所有権移転とともに住宅ローン実行(金融機関から住宅会社の口座に現金が振り込まれる)までが完了して、初めて会社に売上が立ちます。つまり住宅営業の本来の仕事は契約ではなく、引渡しまで終わらせることです。

「口先だけの営業」の問題点とは

本記事を読んだ方の中には、途中で出てきた
「駅から離れた家を買ったら、毎日ウォーキングが出来ると思えば良い」
といったトーク事例を読んで、

「なんだ、住宅営業って結局は口が上手ければいいのか」
のように思った方もいるかもしれません。が、口先だけが上手い営業で契約までこぎつけたとしても、その後に困難が待ち受けています。

問題点①:マリッジブルー期間を乗り越えられない

顧客が本心で納得していない点があれば、それが前述の「マリッジブルー期間」に噴出し、最悪の場合は契約のキャンセルにもなりかねません。

極端な話、嘘をつくのがアリで契約がゴールであれば営業の仕事は簡単です。
しかし引渡しはそうはいきません。特にインターネットによって誰でも簡単に情報収集できる現代では、いい加減な説明や嘘は簡単にバレてしまいます。

仕様変更やサービス品をどうするかなど、打合せた内容を細部まできっちりと果たし、「言った、言わない」で揉めることなど1つもなく引渡しを迎える。そのためには当然、できないことはできないと、きちんと伝える必要があります。

本記事の途中で、盛り上がっている顧客に「水を差す」のも営業の仕事 という内容を挟んだのも、顧客には途中途中で冷静になってもらい、本当にその物件を買って良いのか、諸々をきちんと検討してもらう必要があるからです。

問題点②:顧客満足度が低いと新規紹介をもらえない

仮に、契約後に表面化した顧客の不満も巧みなトークで乗り切り、なんとか引渡しを終わらせたとします。

この場合、顧客の胸には
「なんか、上手いこと言いくるめられた気がする」
という気持ちが残ります。

そうなると当然、「親族や友人を是非紹介しよう!」という気持ちにはなりません。

反対に顧客満足度、すなわち
「この家を買って良かった!担当が〇〇さんで良かった!」
という気持ちが高ければ、親族や友人の紹介を期待できるので、営業成績が安定します。紹介による契約の割合が高いのも、優秀な住宅営業の特徴の1つです。

そう考えてみると「デキる住宅営業」とは、営業トークによって顧客の心を操る側面も確かにあるものの、最終的には顧客に心から納得してもらうような契約~引渡しの着地点を演出できる、そんな方のことだと思います。

まとめ:顧客の気持ちに寄り添える人こそ、住宅営業向き

学生の頃に国語の問題で
「この時の作者の気持ちを答えよ」
と問われて
「そんなの作者に聞いてくれ」
と考えた人は多い(というか、ほとんどの日本国民がそう)と思います。

本記事の最初に書いたように、私は広告部門として住宅営業の面々と打ち合わせをしてきました。そこから聞いた話を今になって振り返ってみると、住宅営業が顧客と繰り広げる心理戦は「作者の気持ちを答える」どころの難易度ではありません。

しかも、住宅営業の仕事には相手の感情を察するだけでなく、多岐に渡る能力が求められます。

  • 話すことよりも聴くことが得意
  • 家族・親族のデリケートな話題にも踏み込む勇気がある
  • 空気を読むことも、あえて空気を壊すこともできる
  • 契約が流れても、素早く気持ちを切り替えることができる
  • 営業も得意だが事務処理も得意
  • マメに打合せ記録を取るのが苦ではない
  • 夜遅くまでの長時間の商談でも平気

上記の全て、あるいは大半に該当し、なおかつここまでを読んで「住宅営業の仕事って面白そう」と思えた方はぜひチャレンジしてみてください。

精神的にも体力的にも大変な仕事ですが、それでもコンスタントに成績を上げることができる方には、年収1,000万円越えの世界が待っています。

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よくある質問&疑問(FAQ)

本記事を最後までご覧頂き、誠にありがとうございます。
内容に関して、想定される疑問点およびその対処法についてFAQ形式でまとめました。

マイホーム購入では、どのような妥協が必要になることが多いですか?

代表的な妥協点としては、「立地(駅からの距離)」「建物の広さや間取り」「設備・仕様」「価格」などが挙げられます。希望をすべて叶えると予算オーバーになりやすく、現実的な選択として“何を優先し、何をあきらめるか”を考えることが重要です。

顧客が理想を手放せない時、営業はどう対応すべきですか?

否定するのではなく、「なぜその条件が重要なのか」を丁寧にヒアリングし、根本の価値観を引き出すことが鍵です。そのうえで、現実的な代替案をリフレーミング(枠組みの転換)を用いて提示することで、納得感のある選択に導くことができます。

実家の口出しや家族間の対立がある場合、営業はどう対応すべきですか?

問題が顕在化する前に営業自らが実家を訪問するなど、先手を打つことが何より重要です。
その上で傾聴力、共感力などが求められます。また、感情的にならず冷静に判断する力(メタ認知)も重要です。顧客の希望にただ寄り添うのではなく、「現実に向き合えるように導く」姿勢が信頼を生みます。

宅建(宅地建物取引士)試験について教えてください。

宅建試験は年1回、毎年10月に行われます。4肢択一式のマークシート方式で記述問題はありません。合格率は15%前後です。
事前に講習を受けた受験生に対して5点を免除(実質的に5点加点)する制度がありますが、受講する上で宅地建物取引業(宅地または建物の売買、交換、貸借の代理・媒介を行う事業、一般的には不動産会社などのこと)に従事しているなど条件を満たす必要があります。従って、現時点で異業種に勤めている方は免除の対象にはなりません。

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