「会議で発言したくても、どうせ自分の意見なんて…」
「評価面談で褒められても、社交辞令にしか思えない」
そんな風に感じたことがあるなら、それは「自己評価が低い」状態かもしれません。
自分の中で自己評価が低いことに自覚的な方もいれば、自己評価の低い人との接し方が気になっている方もいるはずです。
この記事では、まず自己評価と自己肯定感、自己効力感、自尊心といった概念の違いを整理、その上で自己評価が低い人が抱える問題について、心理学・行動経済学の視点も交えながら考えていきます。
「自己評価が低い」とはどういうこと?
端的に言えば、「自己評価が低い」とは「自分の能力が低いと自分で思っている」と考えていることです。ただ、これだけだと他の概念との違いが曖昧ですので、以下に表でまとめてみました。
「自己」をめぐる概念についてまとめ
用語 | 定義 | ビジネスでの影響 |
自己評価 | 自分の価値や能力への判断 | 過小評価しすぎると発言や行動が消極的になる |
自己肯定感 | ありのままの自分を肯定できる感覚 | ミスや批判に対しての耐性を高める |
自己効力感 | 「自分にはできる」と思える力 | 新しい業務への挑戦意欲に直結する |
自尊心(プライド) | 自分の価値を守りたいという感情 | 傷つきやすさや対人関係の緊張と関係が深い |
見ての通り、これらは似て非なる概念で、かつ意外な組合せがあり得ます。以下に思いつく限りの組合せのバリエーションを作ってみましたので、時間がある方は目を通してみてください。
(▼をクリックすると開きます )
①自己肯定感が高くても、自己評価が低い人の例
例: 「私はこの会社で役に立っていない(自己評価:低)」と思い込む一方で、「自分はおっちょこちょいなところもあるけど、他人には親切にしてきたし、自分のことは結構気に入っている(自己肯定感:高)」と考える。
解説: 個人の価値と仕事の成果を切り離して考えているタイプ。仕事のスキルや特定の能力への評価は低くても、人間性そのものに揺るぎない自信や受容がある。ストレス耐性は比較的高いが、キャリアの停滞には繋がりやすい。
②自己評価は高いが、自己効力感が低い人の例
例: 「自分は非常に優秀なはずだ。今回のプロジェクトの成功は自分の貢献が大きい。(自己評価:高)」と考える一方で、「次回プロジェクトのリーダー候補に自分の名前が挙がってるらしいけど、自分にはまだ無理だ。(自己効力感:低)」と考える。
解説: 過去の成功体験や一般的な能力への自信は高いが、未来のタスクや未知の領域に対しては「自分にはできない」と、行動への確信が持てないタイプ。プライドが邪魔して、できないことを認められず、挑戦を避ける傾向がある。
③自己効力感は高いが、自己肯定感が低い人の例
例: 「難しそうな仕事だけど、きっと自分ならできる(自己効力感:高)」と信じている一方で、「自分には仕事しかない。仕事で結果を出せなければ、自分になんか価値がない(自己肯定感:低)」と感じる。
解説: 成果を出すことや目標達成への自信は強いが、「頑張り続ける自分」にしか価値を感じられない。努力していない自分や、完璧ではない自分を受け入れられず、常に自分を追い込んでしまう。燃え尽き症候群になりやすい傾向がある。
④自尊心(プライド)は高いが、自己効力感が低い人の例
例: 「私は優れた人間だ、人から指図されるのは嫌いだ(自尊心:高)」と主張する一方で、「新しい技術はよくわからないし、習得できる自信もないから、誰かに任せよう(自己効力感:低)」と考える。
解説: 自分が人より劣っていることを認めたくないがゆえに、失敗を恐れて新しい挑戦や学習から逃げてしまい、結果的に自己成長の機会を失うタイプ。見栄や体面を過度に重視し、弱みを見せることを極端に嫌う傾向がある。
⑤自己肯定感は低いが、自尊心(プライド)が高い人の例
例: 「私はダメな人間だ、何をやってもうまくいかない(自己肯定感:低)」と深く感じている一方で、「こんなに頑張っているのに、誰にも認めてもらえないなんて、私のプライドが傷つく(自尊心:高)」と考える。
解説: 本質的に自分自身を価値がないと感じているが、周囲からの評価や世間体、自分の体面を守るために過剰にプライドを主張するタイプ。自分の弱みを隠そうとし、失敗を認められない。自己肯定感が低いからこそ傷つけられることに過敏であり、それが周りからはプライドが高いように見える。
なお自己肯定感と自己効力感について、詳しくはこちらの記事もご覧ください。

自己評価が低い人の行動パターン
職場において、自己評価が低さは、以下のような行動として現れます。
- 会議で意見を求められても、「自分なんかが言っても…」と黙ってしまう
- 自分の成果を過小に報告する(=アピール下手)
- 同僚の成功に過敏に反応し、比較して落ち込む
- ミスを恐れて挑戦を避ける傾向がある
それでは自己評価が低いこと自体が悪なのでしょうか?
自己評価が低いまま生きるのはダメなのか?
「自己評価が低いこと=悪いこと」と決めつける必要は全くありません。自己評価が控えめなことで慎重さや謙虚さを保ち、丁寧な仕事ができる人も多くいます。
むしろビジネスシーンでは、自己評価が高すぎて他者との摩擦を生む人の方が問題かもしれません。
- 自己評価が高すぎて周囲を見下す
- 誤りを認めず、協調性に欠ける
- 調子に乗ってミスを連発する
これに比べれば、自己評価が控えめな人は謙虚さという強みを持っているとも言えます。
自己評価が高すぎる人が周囲にもたらす問題については以下の記事もご覧ください。

問題は思い込みが行動にブレーキをかけていること
では、なぜ「自己評価が低い状態」が問題視されるのでしょう?
主な理由は思い込みにより自らの可能性を閉ざしてしまっていることです。
- 「自分は人前で話すのが苦手だから」とプレゼンを避ける
- 「どうせ通らないから」と企画提案をあきらめる
- 「あの人みたいにはなれない」と自分にブレーキをかける
このように自己評価の低さにより行動を制限してしまうことで、成長機会や周囲から評価されるチャンスを失ってしまうのは大きな損失です。
心理学・行動経済学から見る、自己評価が出来上がる仕組み
人間は最初に受けた情報(アンカー)に大きく影響される傾向があります。これは「アンカリング効果」と呼ばれ、自己評価の形成にも大きな影響を与えます。
- 子どもの頃、完璧主義の家庭で育ち、100点以外は認められなかった
- 常に兄弟や他人と比較され、「もっと頑張れ」と言われていた
- 過去の職場で成果が無視され、否定的なフィードバックばかり受けてきた
このような経験が蓄積すると、「自分はダメだ」「自分の考えには価値がない」という認知のフィルターが形成されていき、徐々に自己評価がすり減っていきます。
とはいえ、同じような経験をした人が皆、同じように自己評価が低くなる訳ではありません。
以下のようなことがあり得ます。
Aさんは自動車学校の教習で教官から「君は運転に向いてない」と、何度も言われた。自分でもそうかもしれないと思い込み、その後も運転することなくペーパードライバーになってしまった。
一方、Bさんも同様の事を言われたが、周囲に励まされて自宅の駐車場等で練習を繰り返してみた。その結果、時間はかかったが感覚をつかむことができ、運転は苦でなくなった。
自己評価が低い人に対して、周囲の人がどう接すれば良いかについては、この記事の後半でまとめていきたいと思います。
SNSで「成功した他人 VS 平凡な自分」を比較してしまう時代
自己評価には時代背景との関連性もあります。
自己評価が低い人が、華やかな成功ぶりを発信している人をSNSで見かけると、
- 「同年代のこの人は起業して成功してるのに、自分は…」
- 「同期の〇〇は東京本社赴任、私は営業所で資料整理…」
などのように受け取り、さらに自己評価を低くしてしまいます。
完璧主義と自己評価の関係性
自己評価の低さは「他人から評価してもらえなかった」という初期体験の他にも、自分の中にある完璧主義と結びついて形成されることもあります。
完璧主義は、成功した起業家、トップアスリート、芸術家などに見られる資質です。
これらの方たちは、
「ほとんどの人が気にしないような細部にも妥協しない」
「常に結果に徹底的にこだわる」
といった姿勢を持っており、それは時として「ストイック」と表現されることもあります。
このような姿勢は人並み外れた成果につながることもあり、適度な完璧主義は信頼や評価を高める要素にもなります。しかし、それが行き過ぎてしまうと問題です。
完璧ならOK、それ以外は認めない。
こうした「0か100か」の思考パターンにハマってしまうと、完璧になれない自分に対しての評価を下げざるを得ません。すると次に「どうせ完璧にできないんだから」とチャレンジを避け、自ら可能性を閉ざしてしまいます。
多くの職場では、納期やコストとの関係から「ほどほどに折り合いをつける力」が必要です。これに対して柔軟さを欠いた完璧主義者は「融通が利かなくて扱いにくい人」と、周囲から思われてしまうかもしれません。
自己評価が低いことで起きる問題とは?
先に書いたように、自己評価が低いと新しいことに挑戦できず、行動にブレーキをかけてしまうことがあります。
これは自分にとっての損失だけでなく、周囲の人にも悪い影響を与えます。
周囲から「関わりにくい人」と認識されるリスク
周囲の人にとって「自己評価が低い人」は「関わりにくい人」または「関わりたくない人」となってしまう可能性があります。
- こちらからのフィードバックを全否定のように解釈される
- 過剰に謝られることで、こちらが居心地が悪くなる
- 常にネガティブな言動でチーム内の雰囲気が悪くなる
悪気がなくてもこうした言動が続くと、「控えめな人」を通り越して「やる気のない人」「自信がない人」「面倒くさい人」などと誤解されても無理はありません。
その結果、職場内で孤立してしまったり、誤解から評価を下げる結果になることも考えられます。
有能な人ほど陥りやすい「自己評価のズレ」
一方で、優秀なのに自信が無さそうに見える人もいます。
例えば、
- 実績もあり社内評価も高いのに、自分を「たまたま運が良かっただけ」と見なしている
- 新人時代に比べて明らかにスキルアップしているのに、それを認めようとしない
- 常に「もっと上がいる」と感じ、自己肯定できない
これは「能力が低い」のではなく、目標や理想が高すぎるために起こります。
本人は理想と現実とのギャップに苦しんでいるのですが、周囲からは「謙遜し過ぎで逆に嫌味」のように思われてしまう可能性があります。
自己評価を少しずつ上げるコツ
ここまで「自己評価が低い人」の心理的な背景や問題点を説明してきました。
ここからは少しでも解決につながることをまとめてみます。
自分の「強み」を挙げてみる
まずは自分の強みを挙げてみてください。
自己評価が低い人はおそらく、
「あなたの仕事の上での強みを挙げてみて」
と言われたら困ってしまうかと思います。
(もしも、そこでスラスラと答えられるようなら、その人の自己評価はきっと低くありません)
ですが、いやだからこそ頑張ってピックアップしてみましょう。
まずは小さなことから…
- 「ありがとう」と言われた場面を思い出してメモする
- 同僚や上司に褒められた内容を記録する
- 得意だと思える業務、楽にこなせる作業に注目する
こうした具体的な事実に基づいて強みを見つけることで、自信の土台を築くことができます。
「強み」は自分では気づきにくいもの
ここで、多くの人にとって「自分の強み」は思った以上に気づきにくいもの、ということに触れておく必要があります。「強み」は、本人にとって自分の一部として馴染みすぎているため気づきにくいのです。
これは自己評価が高い人・低い人に関係なく、かつ個人の場合だけでなく企業にも言えることです。
能力のある人、またはその分野に向いている人が「普通にできて、誰にでもできる」と考えている仕事でも、それが向いていない人にとっては困難かもしれません。
企業にとっても同様で、自社が当たり前のように続けてきたサービスや文化が、実は他社にはない強みだったと、後になって気づくこともあります。
だからこそ、自分にとっての強みを見つけるには、今まで当たり前と考えていたことについて、じっくり考え掘り下げることが必要です。
また、「ジョハリの窓」や「ストレングスファインダー」のような自己診断ツールを使って、他者から見た「自分の強み」に気づくことも効果的です。自分では当たり前にやっていることが、同僚からは「すごい」と思われているケースも多々あります。
成果より「行動」に目を向ける思考法
強みの発見以外にも、おすすめなのが「結果」ではなく「行動」に焦点を当てる視点です。
たとえば、
- プレゼンに挑戦した → 発表の内容や反応ではなく、準備と勇気を評価
- 会議で発言した → 採用されたか否かではなく、発言した事実に注目
- 目標に届かなかった → 過程での努力や工夫を振り返る
このように、「やったか/やらなかったか」という行動基準で振り返ることで、自己評価のベースが安定していきます。
さらに、「振り返り日記」や「1日3つ、自分を褒めることを書く」など、ポジティブなセルフトークを習慣化することで、自己評価の改善はより効果的になります。
「自己評価が低い人」に対して、周囲ができることは?
自己評価が低い人との関係性、特にそういった人を部下に持った場合は「共感」が何よりも大切です。
NGな対応:
- 「そんなことないよ!自信持って!」(←かえってプレッシャーになる)
- 「あなたのせいじゃないよ」「考えすぎだよ」(←否定されていると感じる)
OKな対応:
- 「そう感じるんだね」「そう思ってしまう気持ち、分かるよ」
- 「そうやって真剣に考えてるところ、すごいと思うよ」
相手の思いを一度受け止めることで、安心感が生まれ、その後の建設的な対話が可能になります。
評価を押し付けないことの大切さ
ちなみに上でNGな対応としたものは、第三者の視点から見れば「他人からの評価の押し付け」ということになります。
自己評価が極端に低い人は、このような言葉を素直に受け取ることができず、「そんなことはない、自分が悪い」と、心の中で拒否反応を起こしてしまいます。
そこで重要なのは、ユーメッセージ(Youメッセージ)で「評価」を伝えるのでなく、アイメッセージ(Iメッセージ)で「感想」を伝えること。
ユーメッセージとは
「あなた」を主語にし、相手の行動や状態を評価・判断して伝える方法。
例:「あなたはよく頑張ったし、今回の失敗はあなたが悪い訳じゃない。」
アイメッセージとは
「私」を主語にし、自分の感情や考え、相手への期待を伝える方法。
例:「私は、今回あなたはすごく頑張ったと思うよ」
どちらかというと、ユーメッセージは相手から結論を押し付けられているような印象を与えます。
これに対しアイメッセージだと、あくまで「私はこう感じた」ということを伝えているだけなので、自分の判断を相手に押し付けるような印象を与えません。
つまり、本人が拒否反応を起こないようにメッセージを伝えるコミュニケーションの技法です。
本人が気づいていない「強み」を指摘する
先に書いたように、自己評価が低い人にとって、自分の強みはなかなか見えづらいものです。そのため、周囲の人が「その人らしさ」や「役に立っている点」を折に触れて伝えてあげることは、大きな力になります。
たとえば、
- 「あの場面で冷静だったの、すごく助かったよ」
- 「あの資料、すごく分かりやすかったね」
- 「あなたがいると空気が和らぐよね」
このようなフィードバックに対して、本人は謙遜した上で否定するかもしれません。が、だからこそ伝えてあげる価値があります。
本人も無自覚の「強み」を放置してしまうのではなく、それに気づけるように働きかけていけば、本人の自己評価もいずれは変わっていく可能性があります。
自己評価が低い人が気をつけたい行動パターン
自己評価が低い状態が長く続くと、以下のような言動が現れることがあります。
- 依存傾向
- 判断を他人に委ねる
- 自分の意見を持たず、「あなたの言うとおりにします」が口癖になる
- 人に頼りすぎて、相手も負担を感じてしまう
- 過剰な自己卑下
- 褒められても「全然ダメですよ」「そんなことないです」と返してしまう
- 謙虚さを超えた否定により、周囲がどう接していいか分からなくなる
- 被害者意識
- 「自分は評価されない」「誰も分かってくれない」と内にこもる
- 職場で孤立したり、評価されない原因を他者に転嫁しやすくなる
これらの行動は、無意識のうちに周囲との距離を生み、孤立を深める要因にもなります。結果として、さらに自己評価が下がるという悪循環に陥ってしまうのです。
自分を無気力にしてしまう、「どうせ…」の口癖
もう一つの大きな問題は、「どうせ自分なんて…」という思考が習慣になってしまうことです。
- 「どうせ頑張っても評価されない」
- 「どうせ○○さんには敵わない」
- 「どうせ何をやっても意味がない」
このような思考は、自らを無気力にし、行動の意欲を根こそぎ奪ってしまいます。
職場においては、こうした発言が「やる気がない」「協調性がない」と誤解され、評価が下がる原因にもなりかねません。
「どうせ…」の思考がよぎったときは、「その考え方、いったんストップ!」と自身に言い聞かせる習慣を持つことが、心を健全に保つ第一歩です。
よくある質問&疑問(FAQ)
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