「誰とでも仲良くなれる人、誰からも好かれる人こそ営業向き」
この言葉はある意味で正しく、別の意味で間違っています。
確かに清潔感など、顧客から好印象を持たれることは重要です。ですが不動産営業の場合は「契約を取ってナンボ」。契約できない顧客から好かれても意味がありません。
商談の現場では、次のような冷静な判断が求められます。
- 「この人は住宅ローン審査に通らない。見込みがないなら、もう時間は使えない」
- 「この人は本命の他社と見積を競わせるのが目的。用心しないと」
- 「“いい人”と思われるのはいいが、便利屋になってはいけない」
不動産営業とは「限られた時間を、契約の可能性が高い人に集中投下できるか?」という時間と判断の勝負です。
今回の記事では、不動産営業に転職を考えてる方に向けて、
- 「いい人」では成果が出ない理由
- 本気で成果を出すための時間の使い方
- 顧客の見極め方と接し方
といった、不動産営業の実務的な側面について解説していきます。
なお不動産業界への転職について、全体像をまとめた前回記事はこちらです。(どちらの記事から読んで頂いてもいいような構成となっています)

時間との戦い:契約を安定化させる3つの習慣
「今月は契約ゼロかもしれない……」
不動産営業に転職した人が、最初にぶつかる壁が営業成績の安定化です。
数字が良い月と悪い月の波が大きく安定しない。行動量は誰にも負けていないはずなのに見込客のストックが無い、ということも珍しくありません。
その背景にあるのが「時間の使い方」です。
商談や案内など、今月の契約のために時間を使い切ってしまうと、当然ながら次の契約見込を作るための時間は無くなってしまいます。
では、どうすれば限られた時間を上手く使い、営業成績を安定させられるのでしょうか?
ここでは、成果を出している不動産営業に共通する“3つの時間管理習慣”を紹介します。
1.「未来の契約」のための時間を先取りする
契約件数が安定しない人の多くは、“今”に時間をすべて使ってしまっています。
- 今日の内覧対応
- いま動いている案件のローン相談
- 今週末の契約準備
もちろん大切ですが、未来の契約を生む“種まき”ができていないと、翌月以降の予定が真っ白になります。
成果を出す営業マンは、忙しい中でも「週に2〜3時間は必ず!」といった約束事を自分の中で決めて、
- 新規見込み客へのアプローチ
- 過去客への再コンタクト
- 反響物件のチェックとリスト更新
2.商談前の「準備シート」を習慣化する
「準備8割、本番2割」という言葉があるように、商談の成否は準備で決まると言っても過言ではありません。従って「前に何話したか忘れた」「奥さんの名前何だっけ?」といった状態で臨んでいるようでは話になりません。
そこでおすすめしたいのが、「面談前準備シート」の活用です。
最低限、次の項目はチェックしておきたいポイントです:
- 家族構成・年収・職業・住宅ローンの進捗
- 住まい探しの動機と理想
- 決断を迷わせている要因
- 夫婦間や実家との温度差
いくらご本人夫婦がその気になっても、実家からの横やりで破談になるのは不動産ではよくあることです。これらを事前に見直してから臨むだけで、「この人はちゃんと話を聞いてくれている」と顧客に安心感を与えられます。
3.自分の動きを「記録」し振り返る
不動産を扱う場合、営業が成果に繋がるまでには、どうしてもタイムラグがあります。今日対応したお客様が契約するのは1ヶ月後かもしれませんし、半年後かもしれません。
そのため、自分の行動を記録して可視化することが、長期的な成果の鍵になります。
おすすめは、1日5分で書ける簡易日報。
- 今月ここまでの接客件数/反響対応数
- 印象に残ったやりとり、ネック(契約の障害)になりそうなこと
- 明日のToDoと優先度
多くの不動産会社では、これらを業務日報の中でまとめるように義務化・フォーマット化しているはずです。業務上の義務だからといって惰性に任せず、自分の営業スタイルを点検するためのツールだと考えて有効活用しましょう。
見込み客かどうか、どこで見極める?時間配分の成否を分ける判断基準
不動産営業で成功するか否かは、“誰に時間を使うか”の見極めにかかっています。
人として感じの良いお客様だからといって、いつまでも付き合っていても契約に至らなければ、あなたの営業人生を消耗するだけです。
むしろ「このお客様には、今は時間をかけるべきではない」と判断する“勇気こそが、営業職にとって大切なスキルです
ここでは、顧客を大きく3つのタイプに分けて、それぞれの対応方針を解説します。
タイプ①:理想的な見込み客(最優先で時間を使うべき)
以下の条件に当てはまるお客様は、契約可能性が高く、競合他社に奪われるリスクもあるため、集中して対応すべきです。
- 住宅購入に夫婦間の合意ができている
- 購入したい住まいの種類(分譲・注文・マンションなど)も夫婦間で一致している
- 住宅ローン審査の通過が見込める(公務員、上場企業勤務など)
- 他の借入や支払い事故歴が無い
- 経済的にも自立しており、実家から援助してもらう予定無し
⇒実家からの援助があるということは実家からの口出しの可能性もあるということです - 子どもの進学、社宅の期限など、このタイミングでの「購入の必然性」がある
- 価格帯が自社商品とマッチしている
こうした顧客は、住宅購入の「GOサイン」を出す条件が整っていると言えます。条件が揃っているだけに競合他社の営業から見ても「いいお客様」であり、提案力やスピード感が求められます。
タイプ②:将来的な見込み客候補(育成が必要)
今すぐ契約は難しいが、将来的に契約可能性があるタイプです。
- 収入は充分だが転職して間もない、自営業で開業したばかり
⇒勤続年数などの条件を満たさないと住宅ローンを通すのが難しい - 親からの支援を予定しているが、その分実家の意向が影響する
- 実家との関係に課題がある(同居の希望、どちらの実家の近くに住むかなど)
これらの顧客に対しては、定期的なフォローと情報提供で関係を維持することが鍵です。
安易に放置すれば他社に奪われ、無駄に時間をかければ他の見込客を逃す。
バランス感覚が問われる対応になります。
タイプ③:契約可能性が低い顧客(時間をかけるべきではない)
「感じのいいお客様だから」
「なんとなく仲良くなったから」
という理由で付き合い続けてしまう相手が、実はこのタイプです。
- 明らかに住宅ローン審査に通らない(年収・雇用形態・借入状況など)
- 来場プレゼント目当てで資料請求・来場している
- 内心では他社で買うことに決めてる。その上で値引きさせる口実として自社の見積を欲しがっているだけ
- 夫婦間で住宅を購入する合意が無いなど、話が進まず堂々巡り
営業職として契約数の安定を目指すなら、こうした顧客とは早期に線引きする勇気が必要です。
もちろん冷たく突き放すわけではなく、誠実に「今は条件が整っていない」「今後機会があれば」と伝えて距離感を調整する判断が重要になります。
「時間を使うべき?それとも?」この判断こそが勝負の分かれ目
営業職にとって「全ての顧客に全力を尽くす」というと美点のように思われがちですが、こと不動産営業の実務では時間配分のメリハリが絶対に必要です。
全ての顧客に平等に時間を使う=誰にも十分に対応できず、誰からも契約を得られない
この「いい人の落とし穴」にハマらないことが、不動産営業で成果を出すための第一歩です。
信頼関係は築きつつ、踏み込みすぎない:顧客との距離感を保つ力
不動産営業において、顧客との信頼関係の構築は欠かせません。
ですが、「信頼」と「馴れ合い」は紙一重。
どこまで踏み込んでよいか、その距離感を誤ると、商談がコントロール不能になるケースもあります。
“いい人”だけでは契約につながらない現実
「いい人だと思ってもらいたい」
「感じ良く接したい」
という姿勢は大切です。
しかし、いつまでも顧客の顔色ばかりうかがっていては、本音を引き出すことができません。
たとえばこんなケースがあります。
- 顧客:「他社の営業に○○って言われたんですが、それって本当ですか?」
- 営業:「あ、たぶんそうだと思いますよ。参考になりますね……」
一見、誠実な受け答えのようですが、実はこれは顧客に情報をもらうだけの相手として扱われているサインかもしれません。
営業担当としての信頼は得ておらず、単なる情報源になってしまっている状態です。
本当の信頼は“本音で言い合える関係”から生まれる
信頼とは、単なる好印象ではなく、「この人に任せて間違いない」と思ってもらえる関係性です。
そのためには、ときに耳の痛いことも伝える必要があります。
例:
- 住宅ローンに影響する情報を隠している場合:「正直に言ってもらわないと、せっかくの話が進められません」
- 無理な希望ばかり言う顧客に対して:「その条件では現実的に物件は出てきません。一緒に優先順位を整理しませんか?」
こうした言いにくいことをタイミングよく、かつ誠実に伝えることが「この営業担当は本気で自分のことを考えてくれている」と感じてもらう契機になり得ます。
「線を引くこと」もプロの営業としての技術
不動産営業は、人の人生に深く関わる仕事です。だからこそ、顧客に感情移入し過ぎると判断を誤るリスクがあります。
「この人は今はまだ買えない」
「本気かどうかも不明なまま、いいように振り回されてるな」
そう感じたら、限られている時間とエネルギーは他の顧客の為に使う。
こうした冷静な線引きができる営業は長く安定して成果を出し続ける傾向があります。
営業にとって、契約はヤマ場、ゴールは引き渡し
不動産業界の経験が無いと、「契約こそが最大のヤマ場」という気がします。
それも間違いではありませんが、契約はヤマ場ではあっても、ゴールではありません。
本当の意味でのゴールである「引渡し」が終わるまでの間、契約後にも多くの業務と“トラブルの火種”が存在し、ここでの対応いかんで顧客の満足度も、その後の紹介や口コミにも大きく影響します。
契約後、顧客は“疑心暗鬼モード”になる
マリッジブルーという言葉があり、結婚前後に、結婚への不安や迷い、または不満などを感じて、精神的に落ち込んだり、気分が不安定になったりする状態のことを指します。
住宅購入でも似たようなことがあり、顧客が契約書にサインをして後になって
- 「この家で本当に良かったのか……」
- 「他にももっと良い物件があったのでは……」
- 「支払いに無理はなかっただろうか……」
といった心理状態になることがあります。
神経質になっている顧客は、ほんの少しの連絡ミスや手配の漏れがあっただけでも「こんなはずじゃなかった!裏切られた!」と感情的になってしまう場合があります。
これまで温厚だった顧客が人が変わったように怒りっぽくなり、これまで築き上げてきた人間関係が崩壊してしまったようにすら思えるほどです。
契約後に営業担当が担うべき業務とは?
企業によって体制は異なりますが、多くの場合、以下のような業務が営業担当にのしかかります:
- 住宅ローン本申込の案内と書類取得のサポート
- (注文住宅の場合)建築確認や仕様打合せなどの社内連携
- (注文住宅・分譲住宅両方)外構・設備・家具等オプションの相談
- 引き渡しまでのスケジュール調整と確認
- 顧客からの問い合わせ・不安への対応
これらをスムーズに終わらせるために、営業担当には契約後も関係者への連絡・確認の役割があり、事務作業の量もかなりのものです。そして、このうちの1つでも連絡ミスがあると、前述のように顧客との関係が壊れてしまう可能性をはらんでいます。
従って、契約が終わっても引渡しが終わるまでは気が抜けないし、仕事も減らない、というのが不動産営業の実態です。
引き渡し後にも連絡がくる?それを見越した対応が必要
さらに「引き渡し=営業終了」ではありません。
多くの住宅会社ではアフターサービス部門が設置されていますが、ほとんどの顧客にとって「最初に接した営業担当が窓口」という意識は変わりません。
- カーテンレールの取付業者が来ない
- 給湯器のリモコンの使い方が分からない
- 隣の家との境界フェンスに問題がある
こうした問い合わせが、まず営業担当の携帯にかかってくるのが現実です。
営業としての仕事を継続するためには、次のような意識が欠かせません:
- 引き渡し後に対応すべき範囲を明確にする
- アフターサービス部門へのスムーズな引き継ぎを行う
- 自分が永遠の窓口にならないよう距離感を保つ
「何かあったらとにかく連絡ください」
…というスタンスは信頼につながる一方で、あまり頻繁に連絡があると次の契約の為の活動ができなくなってしまう、というリスクもあります。
引き渡しまで、手を抜かない営業が紹介を生む
不動産営業における「真のやりがい」は、ここにあります。
夫婦間や実家との意見の調整など、大変なプロセスを共に乗り越えた顧客から、
- 「この人に任せて良かった」
- 「○○さんが担当だから、良い家ができた」
こんな評価を頂けるのは、初回商談~引き渡しまでの対応で信頼を勝ち得たからこそです。
「知り合いにもぜひ紹介したい」
「あなたにはもう頼まない」
どちらの言葉が待っているかで、これまでの営業活動の真価が問われることになります。
なぜ不動産営業は高収入が可能なのか?業界構造の仕組みを理解する
不動産営業は「きついが稼げる」と言われることが多い業種です。
なぜそれが可能なのか――その背景には、不動産業界独特の仕組みと、営業職の役割の大きさがあります。
”土地は新しく作りだせない” これが全ての始まり
不動産業界の最大の特徴は、土地を自分たちで新しく作ることができない点です。この点は、中古品の買取・販売と性質が似ています。
例えばコンビニ弁当やアパレルのように、需要があれば工場で増産できる商品とは違い、土地は増やすことができない限りある資源。特に好条件の土地の供給には限りがある以上、その仕入れ(用地取得)も困難です。
不動産は「安易な値引き」が許されない商品
不動産会社の仕入れ先である地主や売主の多くは、相続などで土地を手に入れた個人です。
こうした売主にとって、土地は「一生に一度あるかないかの資産売却の機会」。当然、できるだけ高く売りたいと考えます。
そのため、以下のような行動を取るのが一般的です。
- 複数の不動産会社に査定依頼を出す
- 「A社は”ウチなら〇〇〇〇万円まで出す”と言っていますよ」と駆け引きを行う
- 条件に納得できなければ、すぐには売らないという選択もできる
つまり、土地の仕入れは不動産会社にとってオークションのような状況であり、強気で仕入れるには自社が高く売る自信を持っていなければなりません。
売れる力がある営業=土地を高く買える会社に貢献できる
この構造上、販売力のある営業が在籍する会社は、
- 相場よりやや高く土地を買っても売り切る力がある
- 結果として、他社より高い価格で土地を買い取れる
- 売主や、紹介してくれた金融機関からの信頼が厚くなり、次回の売却案件でも優先される
という好循環が生まれます。
逆に、売れる営業がいない会社では、リスクを恐れて安値でしか買い取れず、仕入れ競争に勝てません。
このように、営業の販売力が会社の仕入れ力、ひいては事業の継続性まで左右するというのが不動産業界の構造です。
営業職としての覚悟とやりがい|不動産営業に向いている人とは?
不動産営業の仕事は、一般的な営業職と比較しても重たい責任と深い人間関係を伴います。
しかし、それを乗り越えることで得られる達成感や、他では味わえない喜びもまた、非常に大きなものです。
顧客の「人生の節目」に立ち会うやりがい
不動産営業は単なる「モノ売り」ではありません。
家は、多くの人にとって一生に一度の大きな買い物であり、人生の節目そのものです。
- 「子どもが生まれるから家を買おう」
- 「親との同居を機に住み替えを検討している」
- 「老後に備えてコンパクトな住まいに移りたい」
こうした人生の転機に、営業担当として関われる
特に、丁寧に対応した顧客から「この人に任せてよかった」と言われる
これらは不動産営業ならではの醍醐味かと思います。
数字に追われる日々:プレッシャーとの向き合い方
こうしたやりがいの一方で、契約件数・売上・粗利といった明確な数値が問われる世界です。
プレイヤーであるうちは毎月のノルマといったプレッシャーから逃れることはできません。
- 実家の横やりで破談になった
- 顧客が欲しがる条件の物件が自社にない
- 一生懸命サポートしたのに他社で契約された
こんな状況も日常茶飯事です。
それでも挫けず、常に顧客と誠実に向き合い、飽くことなく改善を積み重ねられるタフな人こそ、不動産営業に向いている人です。
不動産営業に向いている人の特徴とは?
不動産営業という仕事が続くかどうがは、向き・不向きが強く影響します。
しかし、次のような資質がある人にはおすすめです。
- プレッシャーに強く、自分で自分をコントロールできる人
- 顧客の人生に深く関わることにやりがいを感じられる人
- 相手の本音を引き出せる人
- 物事を多面的に考え、説明できるコミュニケーション力がある人
- 地域密着での信頼構築に喜びを見いだせる人
逆に「定時で帰りたい」「互いに本音を探り合うようなコミュニケーションは苦手」というタイプの人には、全く向いていません。
迷っているなら、まずは情報収集から
この記事を読んで、
「向いてるかもしれない」
「やってみたい」
そう感じた方は、まず不動産業界の求人情報をチェックしてみることをおすすめします。
また、自分の特性と向き合うための「自己診断ツール」などを活用することで、より現実的に転職のイメージを描くことができます。
まとめ
- 不動産営業は、「いい人」だけでは成果が出ない現場。見込顧客の見極めが重要。
- 契約はゴールではなく通過点。引き渡しまでの丁寧な対応が信頼と紹介につながる。
- 不動産営業は高収入が可能だが、求められる能力は多岐に渡る。
- 顧客の人生に深く関われる点で、他にないやりがいがある。
よくある質問&疑問(FAQ)
本記事を最後までご覧頂き、誠にありがとうございます。
内容に関して、想定される疑問点およびその対処法についてFAQ形式でまとめました。